- 現職 :
- ジャーナリスト
- 最終学歴 :
- 広島大学総合科学部(1981年)
- 主要職歴 :
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ジャーナリスト
【著書】
- 「ジャーナリストはなぜ『戦場』へ行くのか」(共著・集英社新書/2015年)
- 「”記憶”と生きる―元『慰安婦』姜徳景の生涯」(大月書店/2015年)
- 「ガザの悲劇は終わっていない」(岩波ブックレット/2009年)
- 「沈黙を破る―元イスラエル郡将兵が語る“占領”」(岩波書店/2008年)
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「パレスチナの声 イスラエルの声」(岩波書店/2004年)
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「『和平合意』とパレスチナ」(朝日新聞社/1995年)
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「アメリカのユダヤ人」(岩波新書/1991年)
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「アメリカのパレスチナ人」(すずさわ書店/1991年)
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「占領と民衆―パレスチナ―」(晩声社)/1988年)
【映像作品】
- 「ジャーナリストはなぜ『戦場』へ行くのか」(共著・集英社新書/2015年)
- 「”記憶”と生きる」(2015年)
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「飯舘村―放射能と帰村」(2013年)
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「異国に生きる―日本の中のビルマ人―」(2012年)
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「”私”を生きる」(2010年)
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「沈黙を破る」(2009年)
以上のほか、現在に至るまで著書・映像作品多数
「ジャーナリストとして長年にわたりガザのパレスチナ人難民を映像記録として残した功績」に対して
土井敏邦氏は1985年以来、パレスチナやイスラエルをはじめ、世界各地を精力的に取材してきた。その取材の成果は、『アメリカのパレスチナ人』(すずさわ書店/1991年)、『アメリカのユダヤ人』(岩波新書/1991年)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日新聞社朝日選書/1995年)、『パレスチナ ジェニンの人々は語る』(岩波書店岩波ブックレット/2002年)、『パレスチナの声 イスラエルの声』(岩波書店/2004年)、といった作品群に示されるように、パレスチナ人に関するルポルタージュを中心とした書籍の出版であった。
同氏のルポルタージュの文体の特徴は、長時間にわたるインタビューに基づいて、映像をそのまま活字化したような、視覚的な強烈なイメージを喚起するものである。そのため、読者は同氏の描く臨場感のともなう独特の世界に誘い込まれ、現場をともに目撃しているかのように、追体験のできる読書体験をもつことになる。
土井氏は同時に、1993年よりビデオ・ジャーナリストしての活動も本格的に開始し、報道映像やドキュメンタリー作品をテレビ・映画・DVDで発表するようになった。そのドキュメンタリー作品の特徴は、ナレーションや音楽など余分な要素を排して、簡単なキャプションだけをつけ、関係当事者に直接語らしめるというドキュメンタリー制作上の手堅い手法を採用している。したがって、その映像からは現場に吹き渡る風と音、人びとのざわめき、自動車のエンジン音といった生活音もそのまま録音されることになり、取材現場の空気がそのまま伝わってくるという臨場感をともなっている。映像を通して撮影対象そのものに語らしめる手法をとることで、逆に真に迫る絶大な効果を上げることに成功している。
同氏のDVD映像ドキュメンタリーの代表作は『ファルージャ 2004年4月』(2005年)、『沈黙を破る』(2009年;同年度 キネマ旬報ベスト・テン【文化映画部門 第1位】/同年度 日本映画ペンクラブ賞【文化映画 ベスト1】/同年度 石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)、『"私"を生きる』(2010年;同年度 高円寺ドキュメンタリーフェスティバル奨励賞)、『異国に生きる―日本の中のビルマ人』(2012年;同年度 文化庁映画賞 文化記録映画優秀賞)である。
土井敏邦氏は以上のようなドキュメンタリー作品によって数々の賞を受賞しており、文字通り日本を代表するドキュメンタリー記録映画監督であると高く評価できる。
さらに、同氏のジャーナリストとしての功績で特に強調しなければならないのは、パレスチナのガザ地帯における長年の定点観測によって撮影したDVD作品である。ガザは1967年以来、イスラエルの占領下にあったが、2005年にイスラエル軍がガザから撤退し、以後、現在に至るまで封鎖状態にある。同氏は、パレスチナ人難民一家の住宅に住み込み、その場所を定点観測地点として設定して、1980年代終盤以降、四半世紀以上にわたってガザに住むパレスチナ難民家族を中心に撮影し、その時々のパレスチナ人指導者を含めてパレスチナ人の日常生活とその破壊の実態を継続的に取材してきたのである。そして、長年蓄積してきた映像記録を編集し、その集大成として2015年に『ガザに生きる』5部作としてDVD化したのである。この作品は、パレスチナを代表する人権活動家の弁護士ラジ・スラーニの解説を通して、第1次インティファーダ(民衆蜂起)(1986年)からガザ攻撃(2008~2009年)までのガザの同時代史を映像でたどったものである。本作品は、第1章「ラジ・スラーニの道」、第2章「二つのインティファーダ」、第3章「ガザ撤退とハマス」、第4章「封鎖」、第5章「ガザ攻撃」の5部で構成されている。
同時に、『ガザに生きる』は日本語版とともに英語版も制作された。また、同作品はパレスチナ人政治指導者のインタビューも多数収録されており、パレスチナ現代政治史を考える上できわめて資料的価値が高いものであり、欧米諸国の大学等でも上映され、国際的にも大いに評価されている。
以上の理由から、土井敏邦氏は大同生命地域研究特別賞にふさわしい功績を挙げたジャーナリストとして顕彰するものである。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)