- 現職 :
- 京都精華大学名誉教授
- 最終学歴 :
- 神戸市外国語大学大学院修士課程終了
- 主要職歴 :
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1987年 関西女学院短期大学経営学科教授
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1990年 京都精華大学人文学部教授
- 2015年 同定年退職、同大学名誉教授
- 現在に至る
- 新装版『ネルソン・マンデラ伝—こぶしは希望より高く』(共訳)〔明石書店, 2014〕
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増補新版『精神の非植民地化—アフリカ文学における言語の政治学』(共訳)〔第
三書館, 2010〕 -
『わたしの南アフリカーケープタウン生活日誌から』〔第三書館, 2010〕
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『増補改訂 南アフリカを読む─文学・女性・社会』〔第三書館, 2001〕
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『ベッシー・ヘッド 拒絶と受容の文学—アパルトヘイトを生きた女たち』〔第三書館, 1999〕
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『ひとの数だけ文化がある─第三世界の多様性を知る』洪炯圭(ほん・ひょんぎゅ)
共編〔第三書館, 1999〕
以上のほか、現在に至るまで論文著書多数
備考 :アフリカ文学会(African Literature Association 本部アメリカ 現評議員)
「アフリカ文学の研究・紹介およびアフリカ・日本間の文化交流活動」に対して
宮本正興氏は大阪外国語大学、中部大学名誉教授であり、アフリカ文学者として著名である。宮本氏は京都大学大学院文学研究科言語学専攻博士課程単位取得退学後、立命館大学助教授、大阪外国語大学助教授、教授を経て、中部大学国際関係学部教授に就任され、同大学を2012 年に退職後、現在に至っている。
楠瀬佳子氏もアフリカ文学者であり、京都精華大学名誉教授である。楠瀬氏は神戸市外国語大学大学院修士課程修了後、関西女学院短期大学経営学科教授、京都精華大学人文学部教授を経て、2015 年に名誉教授に就任された。
宮本氏は大阪外国語大学で新設されたスワヒリ語講座の教授を長年つとめ、アフリカ文学の教育・研究に従事した。一方、楠瀬氏は教鞭をとる一方、京都精華大学において第三世界の女性問題に関心を持ち、アフリカ文学・文化論の研究に従事してこられた。
宮本正興・楠瀬佳子両氏は日本におけるアフリカ文学研究のパイオニアであり、その研究業績はすでに高く評価されており、ともに宮本正興・松田素二編『新書アフリカ史』(講談社、1997)によって1998 年、第14 回NIRA(総合研究開発機構)政策研究・東畑精一記念賞を共同受賞しておられる。
宮本氏の主な業績には『文学から見たアフリカ─アフリカ人の精神史を読む』(第三書館、1989)、『文化の解放と対話─アフリカ地域研究のための言語文化論的アプローチ』(第三書館 2002)、『スワヒリ文学の風土─東アフリカ海岸地方の言語文化誌』(第三書館、2009)、『現代アフリカの社会変動─ことばと文化の動態観察』(松田素二共編 人文書院、2002)などがあげられる。
楠瀬氏の主な業績には『南アフリカを読む─文学・女性・社会』(第三書館、1994/補改、2001)や共編著『ひとの数だけ文化がある─第三世界の多様性を知る』(洪炯圭(ほん・ひょんぎゅ)共編 第三書館、1999)などがあげられる。同氏は、ヨハネスブルクやケープタウンでの豊富な生活経験から、とくに南アフリカの女性作家を中心に研究と翻訳を進め、代表作として『ベッシー・ヘッド 拒絶と受容の文学―アパルトヘイトを生きた女たち』(第三書館、1999)などがある。
宮本・楠瀬両氏が一貫して主張しているのは文学からアフリカを見ることで、個人が文化・伝統・民族・国家などと切り結ぶ関係が考察できるという視点である。
アフリカ人作家は英語やフランス語など植民地宗主国の言語を用いて表現せざるを得ない苦悩をかかえている。ながらくノーベル文学賞の候補にあげられているケニア作家グギ・ワ・ジオンゴ(Ngugi wa Thiong’o)は、「英語やフランス語で書かれた作品は真のアフリカ文学とは言えない。真のアフリカ文学はアフリカ人の言語で書かれるべきだ」と主張し、英語での創作活動をやめてギクユ語での創作活動を選択した。
宮本、楠瀬両氏は、共訳『精神の非植民地化─アフリカ文学における言語の政治学』(第三書館、1987/増補新版、2010)、宮本訳『泣くな、わが子よ』(第三書館、2012)などの翻訳を通じてグギの紹介に力を注いできた。宮本氏の近著『評伝グギ・ワ・ジオンゴ=修羅の作家―現代アフリカ文学の道標』(第三書館、2014)はその集大成といえるものである。
宮本・楠瀬両氏は1976 年に砂野幸稔、元木淳子氏など関西在住の同志と「アフリカ文学研究会」を結成した。その目的はアフリカ文学を中心に、広くアフリカの文化、歴史、社会を研究・紹介し、各種の情報の提供に努めるとともに、アフリカと日本の人びとの間の交流をはかり、もって国際理解と友好関係の増進に貢献することであった。そのために機関誌『アフリカ文学研究』(年刊)やアフリカ文学研究会会報『MWENGE』(季刊)を発行し、後者は2015 年4 月現在、すでに42 号に達している。また公開の例会活動などを継続してきたが、なかでもおもに東・南アフリカの文学者を招聘するなど、数かずのシンポジウムを開催し、日本・アフリカ間の文化交流に貢献してきたことが特筆すべき点である。
2000 年10 月には「ジンバブエ・コミュニティ劇団」を招聘し、京都・大阪・東京での公演を主催するとともに、「国際シンポジウム:文化と開発」を京都精華大学で開催した。そのなかで、グギ・ワ・ジオンゴの基調講演と、招聘されたDale Byam (Trinidad, USA)、Ngugi wa Mirii (Kenya, Zimbabwe)、Rugatiri D. K. Mekacha (Tanzania)、Mtumwa C. Mekacha (Tanzania)、Fenson A. Mwape (Zambia) などとともに日本人研究者多数がパネリストとして討論に参加した。
宮本・楠瀬両氏の長年にわたる業績は、研究にとどまらず、文学作品の翻訳、多数の作家との交流をつうじアフリカ文学の紹介に努めてきたこと、およびアフリカ・日本間の文化交流活動をおこなってきたことについて、国際親善、国際貢献を深めるうえで多大な功労があったことは間違いない。
以上の点から宮本正興氏、楠瀬佳子氏の貢献は大同生命地域研究特別賞にふさわしいものとして顕彰したい。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)