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島村 一平 氏
略 歴

島村 一平

現職 :
滋賀県立大学 人間文化学部 准教授
最終学歴 :

総合研究大学院大学 文化科学研究科

博士後期課程単位取得退学(2004年)
主要職歴 :
1993年 ㈱クリエイティブネクサス
2004年 国立民族学博物館講師(研究機関研究員)
2005年 滋賀県立大学人間文化学部専任講師
2011年  ケンブリッジ大学社会人類学部 客員研究員
2013年 滋賀県立大学人間文化学部准教授
現在に至る
主な著書・論文
  1.  (Forthcoming) Ancestral Sprits Love Mining sites-Shamanic Activities around the coal and gold mining sites in Mongolia. In Uradayn E.Bulag, Ippei Shimamura, and  Burensain Borjigin (eds.) Inner Asia, Special Issue Geopolitics and Geoeconomics of Mongolia'ʹs Natural Resource Strategy, University of Cambridge, 2014

  2. The Roots Seekers: Shamanism and Ethnicity among the Mongol-Buryats 〔春風社, 2013〕

  3. Чингис хаан хэний баатар вэ? : МонголЯпонХятадЕвро-АмерикОросын харьцуулалтаас Admon, 2012. 『チンギス・ハーンは誰の英雄なのか:モンゴル、日本、中国、欧米、ロシアの比較を通して』〔アドモン出版, 2012〕

  4. 『増殖するシャーマン:モンゴル・ブリヤートのシャーマニズムとエスニシティ』〔春風社, 2011〕

  5. 「国境を超えるシャーマニズム」(滝澤克彦編)『ノマド化する宗教 浮遊する共同性』pp.81-126〔東北大学東北アジア研究センター, 2011年〕

  6. Монголын Буриадын шүтээн онгон “Хойморын Хөгшин ”  буриад зоны эх гэгддэг болсон учир, Угсаатан Судлал боть 20, pp254-260, 2011「なぜモンゴル・ブリヤートの精霊「ホイモル女房」は、ブリヤート人のグレート・マザーとなったのか」『民族学研究』第20巻〔モンゴル科学アカデミー歴史学研究所, 2011〕

  7. 「ハイカルチャー化するサブカルチャー?:ポスト社会主義モンゴルにおけるポピュラー音楽とストリート文化」関根康正編『国立民族学博物館調査報告81号 ストリートの人類学 下巻』pp.431-461, 2009

  8. 「文化資源として利用されるチンギス・ハーン:モンゴル、日本、ロシア、中国の比較から」(滋賀県立大学人間文化学部研究報告)『人間文化』24号 pp7-34, 2009

  9. 岛村一平著、包路芳・时春丽訳「阿加-布里亚特人的寻根活动:萨满教新的阐释」『世界民族』2006 No.4, pp.53-59〔中国社会科学院, 2006〕

  10. 「モンゴル・ブリヤート人の悲劇の記憶」松原正毅・小長谷有紀・楊海英(編)『ユーラシア草原からのメッセージ』pp.167-188〔平凡社, 2005〕

  11. 「『患者』が『治療者』になるということ:モンゴル・ブリヤート人のシャーマニズムの事例から」『現代のエスプリ』8月号 pp.52-62〔至文堂, 2005〕

  12. The Movement for Reconstructing Identity through Shamanism :  A case study of the Aga-Buryats in Post-socialist Mongolia, Inner Asia vol.6(2),Cambridge, pp.197-214, 2004

  13. The Roots-Seeking Movement Among the Aga-Buryats: New lights on their  shamanism, History of Suffering, and Diaspora. In Mongolian Culture Studies IV - A People Divided : Buriyat Mongols in RussiaMongolia and China. Konagaya Yuki(ed.)〔International Society for The Study of The Culture and Economy of The Ordos Mongols (OMS E.V.), 2002〕pp.88-110

  14. Darkhad shamanism:The cult of vengeful spirit of shamans (Mongolian), BULLETIN The IAMS News on Mongol Studies No1(25), No2(26)〔International Association of Mongol Studies, pp.43-50, 2000〕

  15. 「平原に聴く、シャーマニズムの息吹」『季刊 民族学』93, pp.90-103, 2000〕

以上のほか、現在に至るまで論文著書多数

備考 :2010年  文学博士(総合研究大学院大学)

業績紹介

「モンゴルにおけるナショナリズムならびにエスニシティに関する研究」に対して

 島村一平氏は、ポスト社会主義期におけるモンゴルを対象に、社会の内部における対立や差別のもととなるエスニシティやナショナリズムの問題について、シャーマニズムの復興やチンギス・ハーン言説の隆盛といったいわゆる伝統の復興現象について、斬新な切り口で新しいモンゴル地域研究を開拓してきた。さらに、氏の研究は、国際的に非常に強い発信力を有しているという点においても高く評価されるものである。

 第一に、島村氏の研究は分野横断型のモンゴル地域研究を開拓したという特徴を有している。彼は、ポスト社会主義モンゴルにおいて、シャーマニズムを通じてエスニシティが再構築される過程について、文化人類学的な調査にもとづきながら、社会学や歴史学の成果を踏まえた上で具体的に明らかにした。文化人類学においてシャーマニズムが社会の変革期に活性化することは知られていたが、シャーマン自身が具体的に現実をどのように変えていっているのかという実態のわかる研究は非常に少なかった。島村氏は、のべ6年にもわたる長期フィールドワークを行うことで、外部の人間が容易に知ることができなかったモンゴル系の集団ブリヤートの精神世界に光を当てることに成功した。彼が研究対象としたブリヤートという集団はモンゴル国内において1930年代、男性人口の半分が粛清されるという悲劇的な経験をしている。彼らは絶たれてしまった系譜をシャーマンに「憑依」してきた霊の語りによって新たに創造し、新しいエスニシティを再構築しているという実態を豊富な現地データをもとに明らかにした。シャーマニズムに託された現代的機能を具体的に明らかにした本研究は、シャーマニズム研究の隘路を大幅に拡大するものである。

 島村氏はさらに、現代におけるチンギス・ハーンをめぐる言説や表象について、国際的に比較し、ナショナリズム論の視点から分析した。モンゴルでは、ソ連と社会主義によって民族主義が抑圧されたがゆえにナショナリズムが構築されてきた過程を明らかにし、「印刷社会主義」ないしは「反作用的読み替え」というキーワードで読み解いた。また、従来ほとんどなされてこなかった、ポピュラー音楽という切り口からグローバル社会に対処するナショナリズムを読み解くという斬新な研究も開拓した。

 以上のような研究の成果を国際的に発信していることが、島村氏の研究における重要な第二の特徴である。上述したシャーマニズムの研究『増殖するシャーマン-モンゴル・ブリヤートのシャーマニズムとエスニシティ』は、The Roots Seekers: Shamanism and ethnicity among the MongolBuryatsとして英訳版も刊行された。また、モンゴル語への翻訳もモンゴル科学アカデミー歴史学研究所から申し出を受けて進行中である。

 この研究は、イギリス、ドイツ、アメリカ、中国、モンゴルなどで論文や事典の項目として発表され、国内外で好意的な書評が発表されるなど世界的に高い評価を得てきた。また、チンギス・ハーンの言説や表象に関する国際比較はモンゴル語で刊行されている。

 最後に特筆しておきたいのは、彼の英語の著書や論文は、欧米の理論一辺倒ではなく、日本で練り上げられてきた理論や事例も多数参照しながら論を展開する点である。こうした手法は、海外の読者に対して日本におけるモンゴル地域研究への関心を高めたといわれている。日本における文化人類学的なモンゴル地域研究は欧米よりも歴史が古いにもかかわらず、日本語で書かれていたものがほとんどであるため、世界的に参照されることは少なかった。これに対して彼は、英語やモンゴル語による著書や論文の中で「日本の研究を参照しながら紹介する」という戦略を採っており、日本の地域研究の世界への発信に大いに貢献しているといえよう。

 以上のことから、島村氏がさらなる発展を嘱望しうる研究者であることは疑いない。

紹介者: 小長谷 有紀
(人間文化研究機構 理事)