HOME  >  事業紹介  >  大同生命地域研究賞の贈呈  >  大同生命地域研究奨励賞受賞者一覧  >  末近 浩太
末近 浩太 氏
略 歴

末近 浩太

現職 :
立命館大学 国際関係学部 教授
最終学歴 :
京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科
五年一貫制博士課程修了(2004年)
主要職歴 :

2004年  日本学術振興会(PD)

2006年  立命館大学 国際関係学部 助教授

2007年  立命館大学 国際関係学部 准教授

2014年  立命館大学 国際関係学部 教授

     現在に至る
主な著書・論文
  1. 「「IS後」のシリア紛争:輻輳する3つの「テロとの戦い」(焦点:中東の新たな課題)」『国際問題』第671号, 2018年5月, pp. 37-48.

  2. “Strategies, Dynamics and Outcomes of Hezbollah’s Military Intervention in the Syrian Conflict,” Asian Journal of Middle Eastern and Islamic Studies, Vol. 12, No. 1 (March), 2018, pp. 89-98.

  3. 『イスラーム主義:もう一つの近代を構想する』岩波新書, 2018年, 256 pp.

  4. 「シリア紛争の(批判的)地政学:「未完の物語」としての「シリア分割」(特集 いまなぜ地政学か:新しい世界地図の描き方)」『現代思想』第45巻18号, 2017年9月号, pp. 109-119

  5. 「現象としての「イスラーム国(IS)」:反国家・脱国家・超国家」村上勇介・帯谷知可編『秩序の砂塵化を超えて:環太平洋パラダイムの可能性』京都大学学術出版会, 2017年, pp. 173-193. 

  6. 「イスラームとデモクラシーをめぐる議論」私市正年・浜中新吾・横田貴之編『中東・イスラーム研究概説:政治学・経済学・社会学・地域研究のテーマ』明石書店, 2017年, pp. 19-28.

  7. 「イスラーム主義運動の歴史的展開:中東地域研究におけるその意義を捉え直す」松尾昌樹・岡野内正・吉川卓郎編『中東の新たな秩序(グローバル・サウスは今 第3巻)』ミネルヴァ書房, 2016年, pp. 41-58.

  8. 「分断社会における国軍の相貌:レバノンにおける国民統合と国家建設のトレード・オフ」酒井啓子編著『途上国における軍・政治権力・市民社会:21世紀の「新しい」政軍関係』晃洋書房, 2016年, pp. 168-193.

  9. 「現代の紛争」板木雅彦・本名純・山下範久編『プレリュード国際関係学』東信堂, 2016年, pp. 103-146.

  10. 『比較政治学の考え方(ストゥディア)』有斐閣, 2016年, 290 pp(久保慶一・高橋百合子との共著).

  11. 「中東の地域秩序の変動:「アラブの春」、シリア「内戦」、そして「イスラーム国」へ」村上勇介・帯谷知可編『融解と再創造の世界秩序(相関地域研究 第2巻)』青弓社, 2016年, pp. 49-73.

  12. 「クサイルからの道:ヒズブッラーによるシリア「内戦」への軍事介入の拡大」『中東研究』第522号(2月), Vol. 3, 2015/16, 2016年, pp. 52-64.

  13. 「暴力と憎しみのなかで何を語るべきか:シリアからフランス、日本へ」『現代思想(総特集 シャルリ・エブド襲撃/イスラム国人質事件の衝撃)』第43巻5号, 2015年3月増刊号, pp. 204-210.

  14. 「レバノン:「決めない政治」が支える脆い自由と平和」青山弘之編『「アラブの心臓」に何が起きているのか:現代中東の実像』岩波書店, 2014年, pp. 85-115.

  15. 「序論 中東の政治変動:開かれた「地域」から見る国際政治」『国際政治(特集 中東の政治変動)』第178号, 2014年11月, pp. 1-14.

  16. 「シリア問題は世界に何を突きつけたのか(特集 現代思想の論点21)」『現代思想』第41巻17号, 2013年12月号, pp. 183-189.

  17. 「クサイルへの道:シリア「内戦」とヒズブッラー(焦点 中東の政治変動とイスラーム主義)」『中東研究』第518号(9月), Vol. 2, 2013/14, 2013年, pp. 54-65.

  18. 『イスラーム主義と中東政治:レバノン・ヒズブッラーの抵抗と革命』名古屋大学出版会, 2013年, 480 pp(第4回地域研究コンソーシアム賞研究作品賞受賞).

  19. 「レバノンにおける多極共存型民主主義:2005年「杉の木革命」による民主化とその停滞」酒井啓子編『中東政治学』有斐閣, 2012年, pp. 81-94.

  20. 「「恐怖の均衡」がもたらす安定と不安定:国際政治とレバノン・イスラエル紛争」吉川元・中村覚編『中東の予防外交』信山社, 2012年, pp. 215-239.

  21. 「2010年の歴史学会 回顧と展望:西アジア・北アフリカ(近現代)」『史学雑誌』第120巻第5号, 2011年6月, pp. 293-297.

  22. 『現代シリア・レバノンの政治構造(アジア経済研究所叢書5)』岩波書店, 2009年, 278 pp(青山弘之との共著).

  23. 「グローバリゼーションと国際政治(2):「イスラーム」の「外部性」をめぐって」大久保史朗編『グローバリゼーションと人間の安全保障(講座 人間の安全保障と国際犯罪組織 第1巻)』日本評論社, 2007年, pp. 73-94.

  24. 「「レバノン」をめぐる闘争:ナショナリズム, 民主化, 国際関係」『中東研究』第494号, Vol. 3, 2006/07, 2006年, pp. 56-67.

  25. 「レバノン包囲とヒズブッラー(連載講座 中東の政治変動を読む6)」『国際問題』第555号, 2006年10月, pp. 50-58.

  26. 『現代シリアの国家変容とイスラーム』ナカニシヤ出版, 2005年, 368 pp.

  27. 「シリアの外交政策と対米関係:対レバノン、対イスラエル政策とイスラーム運動の動向を中心に」日本国際政治学会編『国際政治(特集 国際政治のなかの中東)』第141号, 2005年5月, pp. 40-55.

  28. 「現代レバノンの宗派制度体制とイスラーム政党:ヒズブッラーの闘争と国会選挙」日本比較政治学会編『現代の宗教と政党:比較のなかのイスラーム』早稲田大学出版会, 2002年, pp. 181-212.

  29. 「ラシード・リダーと戦間期のシリア統一・独立運動」『日本中東学会年報』第17-1号, 2002年, pp. 123-153.

  30. “Rethinking Hizballah: Transformation of an Islamic Organisation,”『日本中東学会年報』第15号, 2000年, pp. 259-314. 

以上のほか、現在に至るまで論文著書多数

備考 :2004年 京都大学博士(地域研究)

業績紹介

「シリア・レバノンを中心とした現代中東におけるイスラーム主義思想・運動研究」に対して

 末近浩太氏は、中東地域研究、特にシリア・レバノンにおけるイスラーム主義の思想と運動に関する研究において顕著な業績をあげてきた、将来性のあるすぐれた若手研究者の一人である。

 

 同氏は、レバノンとシリアを中心とした現代中東におけるイスラーム主義の思想と運動の史的展開について、アラビア語一次史料の解析と現地調査を駆使しながら研究してきた。

 

 その研究成果は、まず、博士論文を単著として出版した『現代シリアの国家変容とイスラーム』(ナカニシヤ出版、2005年)にまとめられた。そして、その後の成果については、『イスラーム主義と中東政治―レバノン・ヒズブッラーの抵抗と革命』(名古屋大学出版会、2013年)という大部の単著として刊行されている。さらに、最近では、一般向けの読者を対象に『イスラーム主義―もう一つの近代を構想する』(岩波新書、2018年)を上梓し、研究成果の社会への還元にも大きな貢献をしている。

 

 末近氏は、単独論文を多数執筆しているが、主要なものは上記の諸作品に所収されているため、ここではこれらの著書を中心に研究業績を紹介する。

 

 同氏の研究の特徴は、以下の三点に認めることができる。

 

 まず何よりも、研究テーマとして、現代の中東、特にアラブ世界におけるイスラーム主義の思想と運動の実態解明に一貫して尽力してきた点である。末近氏の関心のありようは、博士論文を著書としてまとめた『現代シリアの国家変容とイスラーム』の構成に示されている。すなわち、シリア出身のラシード・リダー、ムスタファー・スィバーイー、そしてサイード・ハウワーといった、現代におけるイスラーム主義の思想家や運動の指導者を中心に取り上げつつ、イスラームと近代国家の関係をめぐる歴史と理論の実態の解明に取り組んできた。こうした取り組みは、2011年からのシリア紛争の泥沼化やシリアとイラクの「イスラーム国(IS)」の台頭の背景を考える上でも、極めて有益な視座を提供するものであるといえる。

 

 第二の特徴として挙げられるのは、中東地域研究と国際政治学・比較政治学を、学際的な方法論に基づいて結びつけるというユニークな研究手法を開拓した点である。これらの学問分野を結びつけるためのテーマ・トピックとして取りあげられてきたのが、他ならぬイスラーム主義である。こうした研究手法は、『イスラーム主義と中東政治―レバノン・ヒズブッラーの抵抗と革命』において大きな発展を見せている。すなわち、ヒズブッラーを、「中東政治の結節点」として、レバノン政治、中東政治、国際政治の様々なアクターの思惑が交差する点として、あるいはまた次々に新たな局面が生起する点としての観点から分析することで、中東地域研究における学問分野の壁を越える新たな枠組みの提示が試みられている。本書は、第4回地域研究コンソーシアム研究作品賞(2014年)を受賞するなど、地域研究の学際的なアプローチを実践した優れた研究成果として、高く評価されている。

 

 第三の特徴は、上記の二つの取り組みを通して、イスラーム主義の思想と運動を理解するための新たな視角を提示したことである。これは、最新の著作である岩波新書の『イスラーム主義―もう一つの近代を構想する』におけるサブタイトルに象徴されている。すなわち、末近氏によれば、現代の中東は「長い帝国崩壊の過程」にあり、イスラーム主義は、「(オスマン)帝国後」の「あるべき秩序」として「もう一つの近代」を追求してきたとされる。このようにイスラーム主義を捉えることは、それを奉じる人びとを十把一絡げにテロリストと同一視するような、過度に単純化された通俗的な見方を乗り越え、その実態を的確に理解していく上で重要な意味があると思われる。これは、地域研究としての大きな貢献であるといえる。

 

 以上、三点にわたり末近氏のイスラーム主義に関する研究業績に関して、特に学際的な研究への取り組みにおける実績をあげたが、その他、学会や研究プロジェクトの組織・運営といった学術活動の面でも、地域研究の発展への貢献を見せている。日本中東学会や日本比較政治学会の理事、それから、科学研究費補助金をはじめとする複数の研究プロジェクトの研究代表者をつとめてきた。

 

 以上のような末近浩太氏の研究実績や学術活動の実行力などを高く評価し、さらに現代中東を対象とした地域研究の新たな展開を期待して、大同生命地域研究奨励賞にふさわしい研究者として選考した。

(大同生命地域研究賞 選考委員会)