- 現職 :
- 国立民族学博物館 教授/総合研究大学院大学 教授
- 最終学歴 :
- 東京大学大学院 総合文化研究科 文化人類学専攻 博士課程(1994年)
- 主要職歴 :
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1996年 国立民族学博物館 第4研究部 助手
2003年 国立民族学博物館 博物館民族学研究部 助教授
2014年 国立民族学博物館 先端人類科学研究部 教授
2017年 国立民族学博物館 人類文明誌研究部 教授
- 現在に至る
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Akira Saito y Claudia Rosas Lauro (eds.) Reducciones: la concentración forzada de las poblaciones indígenas en el Virreinato del Perú. Lima: Fondo Editorial de la PontificiaUniversidad Católica del Perú, 2017.
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Guerra y evangelización en las misiones jesuíticas de Moxos, Boletín Americanista 70: 35-56, 2015.
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Nuevos avances en el estudio de las reducciones toledanas (en coautoría con Claudia Rosas Lauro, Jeremy Ravi Mumford, Steven A. Wernke, Marina Zuloaga Rada y Karen Spalding), Bulletin of the National Museum of Ethnology 39(1): 123-167, 2014.
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Akira Saito et Yusuke Nakamura (dir.) Les outils de la pensée: étude historique et comparative des «textes», Paris: Éditions de la Maison des sciences de l’homme, 2010.
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齋藤晃編『テクストと人文学―知の土台を解剖する』京都:人文書院, 2009.
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Creation of Indian Republics in Spanish South America, Bulletin of the National Museum of Ethnology 31(4):443-477,2007.
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Arte y conversión cristiana en las misiones jesuíticas de Mojos y Chiquitos, Anuario de Estudios Bolivianos, Archivísticos y Bibliográficos 12: 581-609, 2007
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岡田裕成・齋藤晃著『南米キリスト教美術とコロニアリズム』名古屋:名古屋大学出版会, 2007.
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Clara López Beltrán y Akira Saito (eds.) Usos del documento y cambios sociales en la historia de Bolivia (SES 68), Osaka: National Museum of Ethnology, 2005.
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The Cult of the Dead and the Subversion of State Justice in Moxos, Lowland Bolivia, Journal of Latin American Lore 22(2):167-196, 2004.
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「戦争と宣教―南米イエズス会ミッションの捕食的拡張」『国立民族学博物館研究報告』28(2):223-256,2003.
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「ビルトゥチの処刑―ボリビア・アマゾンの一殺人事件とその記憶」『国立民族学博物館研究報告』24(4):727-766,2000.
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『魂の征服―アンデスにおける改宗の政治学』東京:平凡社, 1993.
以上のほか、現在に至るまで論文著書多数
備考 :1991年 学術博士(東京大学大学院 総合文化研究科)
「ラテンアメリカ地域における異文化交渉の動態的研究」に対して
齋藤晃氏は長年にわたって、ラテンアメリカ地域を対象に、フィールド調査と文書館調査にもとづく地域研究を実証的に進めている歴史人類学者である。
同氏の主要な関心は、ヨーロッパによるアメリカの「発見」と「征服」がもたらした諸変化の解明にある。とりわけ、スペインの植民地支配が南米の先住民に及ぼした影響を、①文字と文書の導入、②キリスト教美術の移植、③集住化(ヨーロッパ様式の町への先住民の強制移住)の三点に焦点を絞って研究を進めており、その成果は国内外で高く評価されている。
まず第1の点に関しては、スペイン人が南米に導入したヨーロッパ起源の文字と文書が植民地支配の確立に貢献したこと、先住民がその利用に習熟することで彼らの権利擁護にも使われたことを、南米熱帯低地のミッション(キリスト教布教区)の事例に基づいて詳細に解明した。齋藤氏はその際、文字と文書を解読し、解釈するだけでなく、それらをモノとして作成して利用し、保管することが、スペイン人にとっても先住民にとっても重要だった事実に注目し、知的活動の道具としてのテクストの形態と機能を歴史的に解明する共同研究を立ち上げた。この研究は、国立民族学博物館を拠点とする国内研究、およびフランスの人間科学館を拠点とする国際研究として展開された。とりわけ、パリで開催した国際シンポジウムの成果は、フランス語の編著として人間科学館から刊行され、好評を博した。
次に、第2の点については、齋藤氏は岡田裕成(ひろしげ)氏(大阪大学)とともにペルー、ボリビア、パラグアイ、アルゼンチンの都市部と農村部を複数年かけて踏破し、植民地時代に建設されたキリスト教聖堂を体系的に調査した。この調査結果に基づき、旧スペイン領南米の聖堂装飾の全体像を把握するとともに、画像情報と文献情報を網羅的に収録した研究データベースを構築した。それに基づき、植民地美術をヨーロッパ人と先住民の異文化交渉の産物として捉え直し、ふたつの文化伝統が実体として融合したという従来の「メスティーソ(混血)」美術論にみられる単純な見解を退け、審美的な観点からでは計りきれないその複雑な歴史性を解明した。このような齋藤氏の研究は、歴史人類学の専門性を生かし、南米キリスト教美術の特質を、その背景となった社会・文化的脈絡の検討を通じて浮き彫りにした。
最後に第3の点である、スペイン人が南米の植民地で実施した先住民の集住化の研究は、齋藤氏が近年、もっとも精力を注ぐ分野である。歴史的評価の定まっていなかったこの政策について、齋藤氏はスペイン領南米全土に視野を広げて比較研究を進めている。日本はもとより、スペイン、米国、ペルー、ボリビア、アルゼンチン、チリの専門家を集めて国際共同研究を立ち上げ、国際会議を主催し、スペイン語や英語で成果を発信している。そこでは、ヨーロッパの共同体モデルの一方的強制により先住民の社会と文化がなすすべなく破壊されたという従来の見方が再考されている。齋藤氏の研究によれば、集住化は中央政府の役人や現地の聖職者、有力なスペイン人植民者や先住民首長の交渉を通じて実施され、建設された先住民の町は外来の要素と在来の要素が入り交じり、新たな文化が生成する母体として機能したのである。
以上のいずれの分野においても、齋藤氏は、ヨーロッパの文化的ヘゲモニーのもとアメリカ在来の文化が破壊され、消滅したという通説を疑問視し、両文化の交渉を新たな価値や実践を生み出す創造的プロセスとして再定義している。そこには、旧大陸と新大陸、宗主国と植民地、歴史学と人類学、表象と実践、過去と現在などの一連の二項対立を媒介し、克服しようとする齋藤氏の研究上の独自性が認められる。この研究姿勢は、植民地主義研究における現代的潮流ではあるが、実証的な成果はいまだ限られているため、その成果が持つ価値は極めて高い。とくにこの研究の実現にあたり、さまざまな国の研究機関・研究者と共同研究を組織し、国内外で頻繁に研究集会を開催し、その成果を多言語で発信している点は、人文社会科学の国際化の模範であり、齋藤氏をこの分野を牽引する世界的権威として押し上げた要因ともいえる。
今日のラテンアメリカの社会と文化が、資源と権力をめぐる闘争、異なる世界観・人間観の拮抗、アイデンティティの再編などを通じて形成されてきたことは間違いなく、その点を考慮するならば、齋藤氏の研究は、ラテンアメリカ社会の歴史的基盤を解明する重要な営みであり、その研究を比類なきレベルにまで高めたことは、日本における地域研究にとっても実に幸いなことである。
以上の理由から、選考委員会は大同生命地域研究奨励賞の授与を決定した。
(大同生命地域研究賞 選考委員会)